レベル25

 

 

 

「お師匠ー!」

 

 

 

「ハイハイ、なんですか」

 

 

 

「おぉー! しぃー! しょー!!!!」

 

 

 

「耳元でそんなに大きな声出さなくても聞こえてますよ」

「嘘です! お師匠は口だけでいつも魔法の実験ばっかり、あたしの話なんてなにひとつ聞いてないんですから!」

「ハイハイ、聞いてますから。ちょっとそこの<ランドル魚の泡巣>と<コネリアの木の実>を取ってもらえますか」

「あっ、お師匠こちらですね」

「ありがとう。そこに今から言う分だけ取り分けて」

「わかりました……って、お師匠! それどころじゃないんですよ!」

「顔が近いですよ、キミ。あと胸を押し当てるのもダメですよ、それは僕には通用しません」

「お師匠はアホですか! こんな大事な日に呑気に実験なんかして!」

「何ですかまた藪から棒に。私だって売りに出そうとしている新たな魔法書の研究に……ってなんですか、その手に握られているものは?」

「これを見るとお師匠、今日は<レベル25>になる日じゃないですか!」

「ああ、それは私の記録<ステイタスメモリ>じゃないですか。どこから持ちだしたんですか、あまり人様には見せたくないものですし。まったく気が抜けないですね」

「お師匠のお部屋に無造作に置かれていたのです! それをちょっと観てみたら今日はお師匠の<レベルアップ>の日じゃないですか!」

「そんな気はしていたんですけど、すっかり忘れてましたね」

「なに呑気なことを。あたしがお師匠のお店に来てからまだ1年と経っていないですけどね、こんな大事な日をあたしに教えてくれないなんて! お師匠は、お師匠失格です!」

「弟子にそんなことを言われてしまうとこっちも悲しくなるものだね」

「お師匠ぉぉぉ……お師匠は<レベル25>。<レベル25>、25の年を数えているののになにかこう老いて見えるんですよ、あたし、こんなにも積極的にお師匠と触れ合ってるのに、なんというか空回りしてる感じがふつふつと湧き上がってくるんですよもう!」

「触れ合ってるのにって何もしてないじゃないですか……そういうキミだって<レベル19>。まもなく<祝福の聖杯>の儀じゃないですか。いいんですか? 重要な儀式ですよ」

「それはそれ、これはこれです。いま重要なのはお師匠が今日で<レベル25>になることなんです!」

「重要ね……そんなに重要なことなのかな」

「レベルが上がるんですよ! ”無事”に、ひとつレベルがあがるんですよ!」

「とはいえ、上がるだけだよ。それになんの意味があるというのさ」

「……。」

「そうだ……ちょうどいい。キミとはこの話をちゃんとしようと思っていたんだ。今日という日だしね。キミは偉大な魔法使いになりたいのだろう?」

「……ハイ」

「キミはいま<レベル19>だ。得意な魔法は?」

「氷結系と治癒魔法です。転移系と硬化系がすこぶる苦手です」

「キミはその得意な魔法をもっと得意にしたいと思うだろう?」

「もちろん。だからこそお師匠のこの店の前で三日三晩土下座し続けたんですから。新米の魔法使いならば誰かに師事しないといけないのに、誰にも拾われずに<レベル19>にまでなってしまいましたからね。あたし必死でしたね」

「あれは迷惑だったね。僕がすぐに折れたからよかったものの、あのまま自警団に捕まってたらキミ、この街ほっぽり出されていたよ。なんとなくキミを弟子にする魔法使いがいないのがわかった気もするよ」

「ぐぬぬ」

「それで、キミはキミ自身の能力がレベルに全てを依存していると考えるかい?」

「この世界の<仕組み>ではそうなっているはずです。全知全能の初代教皇がこの魔導国家を、また私達<魔人>を生み出してから100の時を数えた今でも、私たちのレベルと自身の能力というのはこの国に魔人として生まれ落ちたときから死ぬまで鎖のように囚われ続けると」

「で、それが嘘だとしたら?」

「そんなことありませんッ! 教皇の力は絶対で未来永劫その因果からは逃れられないのです!」

「キミはキミつまり魔人のことをよく理解しているのだね。キミはちょっと落ち着きが無いところもあるし、学んだことがすべて胸に行っているような子だ。ただ僕の店の前で頭を下げ続けて僕に弟子入りを迫った時のキミの瞳は、魔人ならざるものを感じたよ。だからこそ弟子入りを決めたとも言えるけど」

「……お師匠?」

「キミはレベルの他に<スキル>というものが存在している可能性を考えたことがあるかい?」

「?」

「魔人は初代教皇が解放した最大の禁忌<古代魔術>によって生まれた第二の人類だ。造られたんだよ、その事実は認めざるをえない。生命の進化とかそんなものをすっ飛ばして造られた存在なんだ。魔人は力を持つ。人類が持ち得なかった<魔力の源泉>というものを生まれた時から備えている」

「それは知っています。だからこそレベルが設定され、年をひとつ数えるごとに魔導教会の定める成長値分しか能力は向上しない。そうやって魔人の能力を調整することで」

「魔人を軍事力として使えたんだ。能力を調整できるからね。こんなに便利な兵器はない。それゆえ、先の大戦でこの魔導国家は圧倒的な勝利を、全世界を手中に収めることが出来た。強大な教皇国の誕生だ」

「それは今もなお続いているはず」

「ところがだよ、キミ。魔人にはもうひとつ値、”能力の伸びしろ”がある」

「どういうことですか?」

「それが<スキル>だよ。スキルというのは自身の努力によって伸びる、魔人のこれまでの抑圧を超える力だ」

「よくわかりません……」

「キミは偉大な魔法使いになるために頑張っているのだろう? 偉大な魔法使いになれば”何か”が変わると思っているだろう? 偉大な魔法使いは教皇に最も近く、最も能力を与えられた存在であると」

「ハイ、それは頑張ればきっとレベルが上った時に教会に認められて」

「認められないとしたら?」

「そんなこと……そんなこと……」

「ああ、ああ、泣かないで。例えばの話だよ」

「うぇぇ……」

「キミが僕のところに来たのも何かの縁かもしれないからね。魔人であるキミには可能性を託したいんだよ」

「うぇ……?」

「先程も言ったがキミはキミの頑張りによって、能力を”自分で”伸ばすことが出来る。そこに教皇も教会も関係ない、キミだけの力だ」

「そんなこと」

「出来るんだよ。僕は魔人の端くれでこうして魔法の研究と販売を細々と続けているけどね。キミはもしかしたら<魔人>というものは誰かに造られたという事実、誰かに成長の全てを握られているという状況から脱することが出来るかもしれないんだ」

「でも、そんなことがわかったら。もしお師匠が実証してしまったら」

「そうだね、教皇側に目をつけられるだろうね」

「お師匠だけ危険な目に遭うのはあたし嫌です!」

「これは可能性なんだよ、魔人の未来なんだ。いつまでも誰かの抑圧の中で造られた自分でいるのなんて……」

「お師匠……お師匠はやっぱりアホです」

「え?」

「お師匠が危険な目に遭うことあたしが嫌がるの知ってて、そんなこと話すなんてお師匠はアホです」

「でも、こうして言わなければキミは一生、キミであることを誰かに押し付けられるんだよ」

「お師匠だけ危険な目に遭うって言ったの聞いてなかったんですかお師匠……お師匠はどうしてあたしがお師匠に弟子入りしたと思いますか?」

「……僕が魔人で魔法使いだから」

「違います、お師匠が好きだからです。お師匠に心酔しているんです」

「へ?」

「あたし、この国に魔人として生まれて、自分が魔人であることになんら疑いを持っていなかったんです。そういうもんだって、自分の人生決まってるんだって。頑張ったらもしかして教会側が何かしてくれるかなって思ってたけど、もやもやしたものが今もあるんです」

「……。」

「でもですね。あるときお師匠を見つけたんですよ。街中で変なこと叫んで自警団に取り押さえられているお師匠を」

「ああ、あの時か。ちょっとした事件だったね。僕もバカなことをしたものだ」

「街中で”魔人の可能性”なんて話をするのはアホの証ですよ。教会に楯突くようなものですから。今こうして暮らしていられるのが不思議なくらいです」

「ずいぶん厳しいね」

「でも、それを見ていてあたし思ったんです。あたしにもお師匠のいう可能性があるのだとしたら、お師匠が自分の信じる道を進むんだったら、お師匠の隣を歩くのも悪くはないなって」

「それで僕のところに?」

「そうです。お師匠が好きになったからお師匠の隣は誰にも渡さないって思ったんです」

「キミは傑作級のバカだね」

「アホに言われたくありません」

「キミはあとひとつ年を数えると<祝福の聖杯>の儀だね。その儀以降に魔人の一生は決する。だからそこで仕掛ける必要があるんだ、僕の考える<スキル>が開花するためには」

「ハイ」

「それまでが勝負なんだ、キミが偉大な魔法使いになってすべてをひっくり返すために、僕はやらなければならないことが山のようにあるんだ」

「ハイ!」

「わかってくれたようだね」

「だからお師匠! 私、えっと、買い物行ってきます!」

「は? 買い物?」

「お師匠のお話、ちょっと難しくて途中からよくわかんなかったんですけど、でも、お師匠が私のこと大切に”想って”くれてるってことはわかりました!」

「は、はぁ?」

「難しいこと抜きにしても、お師匠が今日レベルがひとつあがることには変わりはありません。それがお師匠が考えるような私達魔人の未来をひっくり返すことに関係していても。私は今日という日までお師匠と一緒にいることができたんですから! 私はそれが嬉しいんです!だから今晩はお師匠の好物のシチューにするんです!」

「あ、ああ、ちょっと待ちなさいって」

「行ってきますお師匠! あたし、お師匠のことこれからもずっと愛してます! 今日、それを確かめることが出来てあたしはもう、うひゃー!」

「あー……行っちゃった。あの子は本当に全く読めない子だ」

 

 

 

「はぁ……まあ、あの子が僕のところに現れたのは偶然とはいえ、ね。いやはや、これから忙しくなりそうだな」

 

 

 

fin.

  

***

 

 

私事ですが。

今日でレベル25になりました。

25年前の今日爆誕したわけですが、

25年経った実感はありません。

あとセリフのみってのはなかなか難しいですね。

 

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