読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【SHF】雨々

f:id:yukimid:20121026223404j:plain

photo credit: tanakawho via photopin cc

 

 王都を覆うようにして現れた冬の雨雲は、都の外壁を越えて冷たく吹きすさぶ北風とともに憂鬱な空気をもたらしていた。午前中から降り出した雨は午後になっていよいよ本降りとなった。

 誰もいない酒場のひび割れた窓ガラスから外を眺めると、陰鬱な雲が一面に広がっているのがよくわかる。窓ガラスを叩く雨粒はゆらぎながらに流れ落ち、窓枠に溜まっていく。雨水を通して見る外の世界は、やけに歪んで見えた。

 窓際の席で頬杖をついて目の前の窓の外を眺めていると、何とも言えない物憂い気分がこの世界に広がっているように思えてしまう。顔を少し上げてみる。勢い良く石畳にぶつかっては跳ね返り、逆行しようにも勢いを無くして溜まった雨水が、石畳を縫うように流れてい

 思い立ったように立ち上がると入り口へと向かう。興味もなさげな声で「濡れちまうぞ」と、グラスを拭くマスターから声をかけられた。それに曖昧な返事だけを残して、扉を押した。

 誰も歩いていない。当たり前か。こんな雨の日に、傘も差さずに街を歩く人間など何処にもいない。

 昨日までの冬晴れに浮かれる人々に水を差すような突然の雨、少し小気味よかった。「彼が何物かを手に入れるために、私は何物かを失う」酒場で何度も何度も反芻したこの事実は、受け入れられない。そう考えると、自分の狭量さにひと笑いしたくなるが、それを笑ったところで、笑ってくれる人はどこにもいない。誰も歩いていない。当たり前か。

 城門を守る衛兵が待機小屋から外を眺めている。ポケットに手を突っ込み、固く閉ざされた城門を見上げる。今なら泣いても誰にもバレないか。今なら雨だか涙だかわからない。そう考えると無性に泣きたくなったが、バカらしくなって止めた。

 もしこの雨が人知れず、私さえ知れずに流す彼の涙であるならば、それを全身に浴びる私の体にほんの少しでも染み込んではくれないのか。この雨はあなたの瞳に繋がっていますか? 降り注ぐ雨粒は静かに私の表面を伝って、その冷たささえ感じさせることなく、流れ落ちた。

 

広告を非表示にする