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【SHF】可能性は行動しない限りには衰退していく(7 最終話)

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結局、その夜は一睡もすることができずに朝を迎えた。

事態が収束したのは明け方となってしまったのだ。

応戦した冒険者だけでなく町民の負傷者も少なからずおり、彼は医術の使える者の一員としてその対応に駆り出された。

町中を走り回っては、拠点となった集会場などで治癒を行った。

そこでの疲労は戦闘の比ではなく、足が棒どころか木の根の如く動かすことが難しいほどに動かなくなってしまった。

 

一方の彼女はというと大型の魔物との戦闘を終えて以来ぷつりと姿を消してしまい、再び彼の目の前に現れたのは翌朝、彼が憔悴しきった顔で宿屋の廊下でしゃがみ込んでいたときだった。

彼は自室に戻る気力さえなかったのだ。

彼女は同じように彼の前でしゃがみこむとひとこと、「朝だぞ起きろ」。

その瑞々しい唇から心優しい労いの言葉が発せられるのかと少しでも期待した自身を呪うが、容赦がないと笑う気さえ彼は起きなかった。 

 

 

 

 

この騒動により翌日に予定されていた討伐隊の結成式は順延となった。

順延の知らせは当然のことだろう。

前日のあの混乱の後に、どうすれば”予定通り”に結成式が行われるのか。

しかし不可解であったのは、その後に送られてきた知らせである。

早急に掃討が行われるべきであるという考えが主流となったにも関わらず、王国からさらに届いたのは「無期限延期」の知らせだった。

しかも近隣に配属された国立騎士団に護衛された調査団まで寄越してきての通達である。

昨日の今日でのこの迅速な対応だ。

王国が持つ強大な権力を持ってして瞬く間に調査の主導権を握り、さもそれが当然かの如く事を進めていった。

もちろんそこに冒険者たちの出る幕などなく、むしろ結集した冒険者たちの面目が王国直属の騎士団によって丸潰れとなってしまった。

この知らせに対して怒りと失望を口々に、冒険者たちはこの町を出ていった。

この決定を覆す力をただ依頼を斡旋する集会場にあるわけでもなく、ましてや王国領に属するこの町が楯突くようなことなど万にひとつありえなかった。

集会場の支配人はただただ頭を下げることしかできずにいたが、その事情も冒険者は重々理解しており、ことさら王国側の傲慢な対応を集会場にぶつけるなどといったことは行わなかった。すべては熱狂に始まり、静かに終わったのだ。

外来の冒険者たちが去った後は、この町やその周辺を拠点に活動する冒険者たちのみとなり、この討伐隊結成前の様子がこの町に戻りつつあった。

 

 

 

騒動後の彼はというと、討伐隊に参加するかどうか集会場の前でひとりためらっていた頃とは違い、ひとつの方向性を見出すことが出来た。

それは魔術師としての自身の身のあり方についてである。

ついこの間までは剣を振るっていたわけだが、今は杖を握り、日々難解な魔導書を読み進めるという”今まででは考えられなかった状況”に身を置いている。

それは彼自身にとって、すべてが困難と言う状況かというとそうではない。

この転機を物にしようと考えるようになったことがまずもっての大きな変化であり、彼も自身の役割を自覚したことによる今までに体験したことがないような高揚感を常に持ち続けていたいと考えるようになった。 

すべてはあの時彼女が自身に問いかけた言葉から始まり、彼女の背中を守るという事態で見つけた弱々しくも光り輝く可能性だった。

 

彼が魔術師としてこの世界に身を置くと決したことが、この世界に対して大きな影響を与えるかといったらそうではない。

彼が剣士であったときも、魔術師であったときもこの世界はなんら変わらずに進んでいく。

だが彼はそれでもよかったのだ。

それに焦りを覚える必要はなにひとつない。

以前「この世で最も強い魔法は貴様の行動に宿る」と彼女は言った。

その言葉の真意は唐突に告げられた魔術師への転職と、それを彼自身が選択したいまになって、段々と霧が晴れるように見えてきた。

すべての可能性は行動しない限りには衰退していく。

それゆえ彼は芽生えた可能性にかけ、行動を起こしてみることにしたのだ。

 

 

 

しかし、ひとつ不可解だったのは彼女がこの一件以来姿を見せなくなったことである。

騒動の翌日こそ集会場にいた彼の前に現れ、彼の状況を訊かれはしたものの、そこで別れて以来彼女はぱったりと姿を消した。

そもそも彼女はこの町の集会場に居ることはあっても、彼女の所在が確実にわかっているという話ではない。

元々この町に居たのか、それとも流れなのか。

その妖艶たる容姿に加え、他を寄せ付けない独特の威圧感、孤高の存在であった彼女は冒険者の間で話題になるも、彼女の本当の所在を知る者は誰一人としていなかった。

この期間中、彼女と共に行動した彼であっても彼女がどこに暮らしていてそもそもどういった人物なのかということを知ることは出来なかった。

知ったことと言えば、彼女の名前と彼女の剣の腕が立つこと、さらになぜか他人の治癒の術が彼女には効かず、彼の術は効果を発揮するということだった。

 

もはや彼女については不可解なことしかない。

彼女から受けた、血も吐くような特訓がないことには安心はするものの、日に日に彼女に対する興味というものは増してくる。

果たして彼女は何者なのだろうか。

月夜に照らされた彼女の表情に孤影が含まれていたことさえも、今ありありと思い返すことが出来る。

ただ、興味が増してきた最中で彼女が姿を消したいま、彼に出来ることはなにひとつなかった。

 

しかしその謎の塊たる彼女−−−リデル・ハンメルトが再び彼の目の前に現れたのは、彼の魔術師としての可能性が彼をこの町の外に向かおうとさせた、夏も過ぎ去る穏やかな日のことであった。

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

「刃を研ぐ」

 

見つけた可能性は、行動をしない限りには衰退していきます。

それはそれはあまりに自然に、あまりに無慈悲に可能性というものは消え去っていくのです。

見つけ出した可能性を花開かせるために、刃を研ぐわけですが。

何もここではすべて”鍛錬”という、堅苦しくて汗臭いことばに集約されるわけではありません。

ときに泥臭いことも必要になっては来ますが、まずもって必要になってくるのは、

見つけることが出来た可能性を可視化すること。

つまり見えるようにしておけということなのです。

誰もが口を酸っぱくして言っていることですが、改めて。

自身の可能性を確実なものにするためには、まず自覚し、書くこと。

そして行動することです。

 

 

ということで、このお話もやんややんやと続いて7話分になりました。

ここで一区切り。

実験として書きましたが、『7つの習慣』のなの字は一切出さず、そのエッセンスだけで話を作るというのは至極難しい。

「風呂敷は大きく広げて立ち去る」を地で行くわけですが、このお話の中で解決させていないことが多々あります。

まあ、それは後々の含みということで。

ではでは。

 

  

 

※前回までのお話 

 

【6-3話】

【SHF】完璧など存在しない(6-3) - なんかカラフルな生活

 

 

 

 

 

【6-2話】

【SHF】完璧など存在しない(6-2) - なんかカラフルな生活

 

 

 

 

 

【6-1話】

【SHF】完璧など存在しない(6-1) - なんかカラフルな生活
 

【5話】

【SHF】役割があるからこそ理解する必要がある(5) - なんかカラフルな生活

 

 

 

 

【4-2話】

【SHF】最大効果のため信念を変えずに戦略を変える(4-2) - なんかカラフルな生活

 

 

 

 

【4-1話】

【SHF】最大効果のため信念を変えずに戦略を変える(4-1) - なんかカラフルな生活

 

 

 

 

【3話】

【SHF】重要なのは境界線ではなく、なぜ境界線を引いたのか(3) - なんかカラフルな生活
 

【2話】

【SHF】彼女は言った「この世で最も強い魔法は、貴様の行動に宿る」と (2) - なんかカラフルな生活

 

 

 

【1話】 

【SHF】討伐隊と、主体性の奪還 (1) - なんかカラフルな生活