【SHF】完璧など存在しない(6-3)

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それは絶叫にも近い。

彼女の呼ぶ声で、彼はひとつの可能性にたどり着いた。

集会場で会話をしたとき、突然指先を自ら切った彼女の姿が頭をよぎる。

彼が治療をし満足そうにしていたことも。

彼女は知っていたのではないだろうか。

いや、その可能性に賭けたのかもしれない。

 

彼は無我夢中になって、頭の中に次々浮かぶ言葉を唱えた。

構える杖に淡い光が宿る。彼女を真っ直ぐその眼に捉え、手にした杖を彼女に向ける。

杖の先に集中した光が発散する。

 その光は彼女のもとまで届き、負傷した左腕を包み込む。

 

魔導士が放った術よりも、光は小さく弱々しい。

しかし傷ついた身体の再生を加速させるには、あまりにも十分であった。

細胞が息を吹き返し、燃え上がるような熱を持つ。

抉られた傷は再生された筋が隆起することによって、塞がっていく。

彼女の腕が血に染まっていることを除けば、抉られる前のそれとなんら変わりはない。

赤く染まる彼女の腕が上がった。大丈夫だ、という合図か。

 

彼はこの事態のすべてを理解することは出来なかった。

ただひとつ言えることは、この場で彼女を助けることが出来るのはおそらく彼しかいないということだ。

彼の意を知ってか、後方の彼に視線を送る。

一瞬、笑ったようにも見えた。

 

再び火の灯った彼女の瞳が、剣士と交戦する魔物を捉える。

響き渡る彼女の咆哮。威嚇、雄叫び。

力を取り戻した彼女の身体が唸りをあげて、その足を前進させる。

 

彼女の盾になっていたふたりの剣士が、彼女の動きに気が付き道を開ける。

数で言えばこれで3対1である。

ふたりの剣士は左右にそれぞれ別れて、彼女と3方向から魔物を囲い込む。

剣士が交互に斬り込みをかける。

その途切れることのない攻撃に防戦一方の魔物が、斬りつけられる度に憤怒の声を上げるが、その声も虚しく徐々に体力を削り取られていく。

ふたりの剣士の双子と見紛うような息の合った攻撃に感嘆しながらも、彼は彼女に目を配る。

彼女はゆっくりと歩みを進め、魔物との距離を詰めている。

ふたりの剣士が執拗に攻撃を繰り返す。

完全に気を取られている魔物に、一撃を喰らわせるつもりだ。

彼女は低く構え、剣先を上げた。

体から溢れる闘気が、陽炎の様に揺らめく。

上げた剣先を水平に構え、月夜に光る切っ先が魔物を捉える。

”突き”か。

彼がそう考えた直後、剣士の一撃を食らった魔物が身体をよろめかせた。

彼女はその瞬間を逃さず、足にタメた力を解放し滑るように一足で前進する。

後ろに引いた肘が、手にした剣を弓のごとく前方に弾き出す。

空気を裂くような疾風怒濤の突き攻撃だ。

魔物の腹部に切っ先が触れた瞬間、彼女は活目し、全身の力を剣に込める。

長剣の半分ほどが、魔物の体内に突き刺さった。

心臓まで達したであろう剣を、今度はねじ切るようにして引き抜く。

 

 

何かがはち切れる音。

魔物の腹部についた剣創から、どす黒い血液が吹き出す。

 

 

魔物の死角から彼女が放った一撃は、魔物を絶命させるに十分な破壊力を持っていた。

魔物は絶叫を上げながらも、背後で構える彼女に食らいつこうとする。

しかし、その前足を上げたときにはすでに生命が潰えていた。

足を上げ身体を硬直させたまま、倒れこむ。

吹き出した血が倒れる身体に合わせてゆっくりと半円を描く。

崩れ落ちた魔物はもはや動く様子はなく、月明かりに照らされた肉塊と成り果てていた。

 

 

 

彼女は一息つくと、構えを解いた。

夜風が彼女の後ろ髪を揺らめかせる。

ゆっくり振り返った彼女と目が合った。そこには勝利に対する喜びも安堵もない。

彼女のその瞳はどことなく色彩に欠き、体から溢れる闘気は消えている。

いつものように”大丈夫だ”と言わんばかりに口角を上げるが、どこかぎこちない。

 

鳴り響いていた警鐘が止み、辺りに静寂が戻る。

彼は真っ先に彼女のもとに駆け寄ると、彼女はひとことだけ、聞き取れるか聞き取れないか細い声で感謝の言葉を述べた。

 

 

 

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「相乗効果を発揮する」
 
公的な成功は私的な成功(=自立)の上に成り立つと『7つの習慣』には書かれています。
それは誰かと何かをするというときにも言えることでしょう。
 
例えば何かと戦うというこのファンタジーの世界においても
「戦いにおいて、パーティとして機能していない」と。
その集合が一個人のように語られることもままあることでしょう。
ただ、こうしたことが起こる根本的な問題として、
「”その結果は個々人の選択の結果に因る総和だ”ということに気付いていない」
ということが挙げられます。
 
個人で達成しようのないことを集団で達成しようもないのです。
しかし、相乗効果を発揮するとは個人レベルでの”選択”がお互いに相乗効果を生み出し、個人ではなし得ない結果を集団で得るということなのです。
これはうまく行けばとてつもないパワーを生み出すことは、数々の成功組織をみてわかるかと思います。
しかし、これには高い高い障壁、困難や痛みが待ち受けています。
なんせ、我々は人間なのです。問題は簡単に生じます。
 
お互いに相乗効果を発揮し、チームとして成功をおさめる。
私的成功による地盤の上でお互いが築きあげる信頼関係には、これを成す力が秘められていると考えます。
 
 
やんやと話を6つ書いてきましたが、残り1話です。
今後もよろしくお願いします。
 
 

※前回までのお話

 

【SHF】完璧など存在しない(6-2) - なんかカラフルな生活

【SHF】完璧など存在しない(6-1) - なんかカラフルな生活
 

【SHF】役割があるからこそ理解する必要がある(5) - なんかカラフルな生活

【SHF】最大効果のため信念を変えずに戦略を変える(4-2) - なんかカラフルな生活

【SHF】最大効果のため信念を変えずに戦略を変える(4-1) - なんかカラフルな生活

【SHF】重要なのは境界線ではなく、なぜ境界線を引いたのか(3) - なんかカラフルな生活
 

【SHF】彼女は言った「この世で最も強い魔法は、貴様の行動に宿る」と (2) - なんかカラフルな生活

 

 

 

【SHF】討伐隊と、主体性の奪還 (1) - なんかカラフルな生活

 

 

 

 

 

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