【SHF】完璧など存在しない(6-1)

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騒ぎになっているのは大広場のようだ。

それとは反対方向に駆け出した彼女のあとに続く。

彼女曰く魔物の襲撃を受けているとのことだが、まだ魔物の姿は目撃していない。

彼が宿泊している宿屋は町の中心からは外れた場所にあるためか、はたまた魔物が大挙して押し寄せたというわけではないということか。 

防衛設備の無い町であるために、こうなってしまうと大騒ぎになる。

ただこの町の唯一の救いは、”冒険者が大挙して押し寄せている”ということだ。

 

真夜中であるにも関わらず、あちらこちらで冒険者が松明を灯す。

月明かりは十分にあるが、魔物は火を恐れる傾向がある。

真っ先に松明が灯るのはそのためだ。

町民は一切外には出ず、家の灯りを消し、扉を固く閉ざしていた。

危険を知らせる警鐘は相も変わらず鳴り響いている。

 

「こっちだ」

 

彼女は何かに導かれるようにして、止まること無く進んでいく。

いったい何を目指しているのだろうか。

 

そのとき彼は彼女とともに進む通りの先に、うごめく魔物を見た。

やはり襲撃の話は本当であった。町中に魔物がうろついているとは。

その数は遠目にも3体であることがわかる。

深夜の襲撃という非現実が、目の前で起こっていることを改めて理解する。

 

出くわした魔物は蜘蛛のような顔だが、足は四つ。

全身が黒い剛毛に覆われ、節足動物なのか哺乳類なのか区分けができない姿で、地面を這う異形の生物だ。

6つの赤い目を夜闇に光らせている。

彼は彼女の名前を呼び、立ち止まって杖を構えた。

 

「構うな! 行くぞ!」

 

彼女は振り返ることなく進路を変え、小道に入り込んだ。

彼女の予想外の行動に戸惑うも、置いてかれまいと後を追った。

 

「どうして相手しなかったんですか」

「任せられるのであれば、他の奴らに任せる。全体で戦うのが防衛戦だ」

 

振り返ると、人影が彼らが今まで走っていた通りを駆けていくのが見えた。

他の冒険者達だろう。

いちいち目の前にいる魔物の相手をしている必要はないということだ。

しかし、彼女は走りながらも他のパーティが後続にいたことに気づいていたのか。

彼女の勘の鋭さは常軌を逸している。

 

 

 

 

曲がり角をふたつみっつ曲がり、細い路地を抜けると、町の北西にある小さな広場に出た。

彼女は道が開けた瞬間に、足を止める。

急に立ち止まった彼女の背中にぶつかりそうになるも、彼も同じく足を止め立ち止まる。

 

「……みつけた」

 

彼女はそう呟くと、夜闇を睨んだ。彼女の背中越しに彼も目を細める。

月が出てきた。雲の流れが早い。

辺りが、月明かりに照らされては夜闇に消えを繰り返す。

その月明かりに照らされる巨体。

さきほど遭遇した魔物よりも一回りも二回りも大きい。

同じ種族であろうが、その四肢は何よりも太く、口元から2本の牙が大きく伸びている。

おぞましい姿だ。魔物の切るような呼吸音が、耳に障る。

魔物は彼らを捉えるがいなや、その赤い目を光らせた。

 

「来るぞ」

 

彼女は剣を抜いた。

鞘とこすれた金属音と共に、彼は杖を握る手に力を込める。

 

「貴様は貴様が出来ることをやれ」

「わかった」

「貴様が倒れたらこのパーティは終わりだ。剣士である私の役目は貴様が倒れないように盾になることだ。では……貴様の役目は?」

「……あなたが倒れないように守ること」

 

彼の回答を聞くやいなや、彼女はまっすぐに魔物へ向けて駆けた。

走りながらも剣先を下げる。

一撃目は斬り上げるつもりだ。

石畳を蹴る音。魔物との距離が詰まる。

向かってくる彼女に対し、左方に飛び跳ねる魔物。

彼女は軸足を踏み込み、身体をひねる。

 

左方に回った魔物が横っ腹に飛びかかろうとするのと同時に、剣を振り上げた。

タメを解放したバネのごとく身体に加えた力を剣に乗せる。

大口を開けて跳びかかる魔物の顔面に、刃が当たる。

触れた瞬間、一気に剣を振り抜いた。

顔がひしゃげ、呻きをあげながら魔物が弾け飛んだ。

勢いを無くさない剣が石畳に当たり、甲高い音を響かせた。

豪快で俊敏な、見事な一発だ。

”普通の”魔物であれば、この一発で怯む。

飛ばされた魔物が、よろよろと立ち上がると、身体をぶるぶると震わせた。

顔面から顎下にかけて出来た創傷から、どす黒い血が流れ落ちる。

魔物は溢れ出んばかりの殺気を放ちながら、彼女と対峙している。 

 

この一撃で彼女が、魔物の上を行くように思えた。

彼女に恐れや迷いはなく、戦い方も手慣れたもので、もしかしたら以前にもこの種族と戦ったことがあるのかもしれない。

そう考えると彼女の後方で、注意深く戦況を見守る彼にも若干の安堵の思いも湧くのであった。

とはいえ、仲間が負傷した時のみ動くのが魔導士の役割ではない。

彼は前日までに彼女に覚えるよう要求された術のひとつを思い浮かべる。

敵からの打撃による衝撃を抑えるための術を唱える。

戦い慣れた彼女であっても、もし敵からの一撃を食らえば形勢が変わってしまうことも考えられる。

屈強な肉体を持つ剣士と、彼女を比べてしまうとさすがにそこに差は生まれているのだ。

詠唱が完了すると、彼女の身体を淡い青色の光が包んだ。

しかしそれに気づいた彼女の横顔は、実に苦々しいものであった。

 

彼はその理由をすぐに知ることになる。

 

 
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 (6-2)に続きます
 
 

※前回までのお話

 

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