【SHF】最大効果のため信念を変えずに戦略を変える(4-2)

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「は?」

 

彼は彼女の言葉を一度に飲み込むことが出来なかった。

”魔導士”とは、様々な自然現象を人の手で発生させることの出来る技術を持つ者や医術や治療といった人の生命に関わる技術を持った者の総称だ。

昔から”魔法”と呼ばれてきた部類の技術を扱える者を言い表すのだが、”魔”という字が使われ続けるのは解明されていなかった頃の名残だ。

彼女は彼にその一員となれと言っている。

 

「貴様の素質を見込んでだ。剣を握る貴様の手、あれはどうみても持つものを間違えている」

 

そう言いながら彼女が麻の袋から取り出したのは、新品の魔道具だ。

身体を束縛しない白色のローブに、握ることで手に力を入れる杖。

草の上に広げた道具の数々は、基本的な装備が全て揃っていた。

 

「いやいやいや、突然そんな!」

 

ありえない。

昨日の今日で転職ができるほどの技量も気力も覚悟も彼は持ち合わせていない。

 

「突然ではない。昨日から決めていた」

「それはあなたが決めたことで」

「さらに言うなら、貴様には魔導士になってもらわなければならない」

「えっ?」

「理由は私と一緒にいればわかる」

「はっ?」

 

魔導士になれと言う理由もわからないどころか、すべてが全くわけがわからない。

彼の頭はひどく混乱していた。

 

「さて、どうする?」

 

これは頷く以外に答えがない問いかけだ。

頷かないとしたら頷かないで、恐らく彼女はここから立ち去るだろう。

それくらいは彼にも予想は出来た。

あまりに予想が出来るため、この選択というのは少々味気がないようにも思えた。

彼は彼女が一生彼の前に現れないような気もしていたし、また、悶々とした日々をスタートさせることへの躊躇いも感じる。

 

ただ予想が出来ないのは、頷いた場合だ。

彼が頷いたとする。そうすると、今まで持っていた剣は倉庫に仕舞い、代わりに目の前に置かれている杖を手に取る事になる。

彼には自身が魔導士用のローブを身にまとい、杖を握る姿が想像できなかった。

想像は出来ないのだが、どうやらその姿を想像し、現実のものにせざるを得ないように思える。

 

「選べってことか……」

「そうだ。貴様は貴様の責任において”選択することが出来る”。進む道の選択をしない自称迷える子羊に、進むべき方向の選択をさせる。貴様にとって、この選択がどう転じるかは私にはわからん。わからんがこの先、同じような選択肢を提示してくる奴が貴様の前に現れる可能性は?」

 

恐らく、その可能性はない。

彼女の様な人間に巡り合うこと自体、彼の人生の中では特異なことだ。

この案に乗った方が彼の人生に何かしらの影響を与えると考えるのが自然であった。

相も変わらず正体不明な、この強大な力と類い稀なる強引さを持ち合わせる女性が示す選択肢を、自ら選ぶということをしてもいいのかもしれない。

 

「……わかった。その提案をのもう」

「よく言った」

 

彼女は満足そうに頷くと、口元を緩めた。

それが初めて見た彼女の笑顔だった。

 

 

 

 

それから3日間は彼女の”しごき”が始まった。

彼の選択により必然と化した訓練ではあるが、それは彼の想像を遥かに超えた厳しさであった。

彼女の鍛え方には慈悲も自愛も容赦もなく、さらには彼女の瞳孔は開きっぱなしであったのだ。

彼は直接の戦闘を行わないため、立ち回りを考えなければならない。

彼女は彼が倒れない様に戦うのだが、当の彼は彼女が倒れない様に支えないといけない。

このバランスが難しく、彼女が傷を負ってから治療に入ってはまるで遅い。

彼女はわざと手を抜くときがあり、襲い来る魔物を彼のもとに仕向けてくるのだ。

いまや攻撃する武器を持たぬ彼に、緊急事態の対処法を叩きこむつもりなのだ。

彼が半端な行動を取ろうものなら、鉄拳が飛んでくることもあった。

ようやくその彼女が(とりあえず)満足するようになったのは、討伐隊結成の前日のことであった。

 

「どうだ?」

「まあ、なんとか……」

「そうかそうか、よく頑張ったものだ」

 

彼女は満足そうに頷く。

彼はクラクラしそうになるが、事実、彼女は鬼の化身でしかないのだから仕方がない。

そうして彼は彼女と別れ、今日は泥のように眠ることが出来るという自信とともに 宿屋に向かった。

 

討伐隊結成を明日に控えたその夜。

彼の選択によって、すべてが始まった夜である 。 

 

 

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「Win-Winを考える」

 

「誰が為に」というのはバランスがムズカシイです。

自己犠牲にも振れてもいけないし、自己満足に振れてもいけない。

 

もし仮に転職して魔導士となったら。

もし仮に彼が剣士のまま彼女とともに行動をしたら。

選択は自己の責任において行うことの出来る行為です。

彼女はなにかの理由があってか彼に対して「転職」を提案します。

強引な方法であったにしろ、その選択肢を彼に提示します。

 

その提案を飲むことは果たして「Win-Win」になり得るのでしょうか。

「Win-Lose」なのでしょうか、もしくは「No Deal」なのか。

 

少なからず、この選択において彼が「Win」を意識したことは間違いありません。

そしてその選択によって、絶対的信頼関係を築いていないにしろ謎多き彼女に近づくことを決めています。

最良を選択をするためにはまず自ずから選択・行動する。

これは「Win-Win」を目指す上での第一歩です。

 

 

※前回までのお話

 

【SHF】最大効果のため信念を変えずに戦略を変える(4-1) - なんかカラフルな生活

【SHF】重要なのは境界線ではなく、なぜ境界線を引いたのか(3) - なんかカラフルな生活
 

【SHF】彼女は言った「この世で最も強い魔法は、貴様の行動に宿る」と (2) - なんかカラフルな生活

 

 

 

【SHF】討伐隊と、主体性の奪還 (1) - なんかカラフルな生活

 

 

 それでは、どこかの誰かさん。あなたに彩のあるカラフルな日々を。