読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【SHF】彼女は言った「この世で最も強い魔法は、貴様の行動に宿る」と (2)

f:id:yukimid:20120630153323j:plain

 

木製の扉を押し開けると、集会場の中は冒険者でごった返していた。

ざっと見渡して50人以上はいるだろうか。

常日頃平穏である集会場が、異様な熱気に包まれている。

熱気と喧騒の中を果敢に進もうとするも、入り口から数十歩進んだところで目の前を巨漢に塞がれてしまう。

その男たちの背中から放たれる臭気が鼻をつく。

獣じみた臭いだ。気分が悪い。

このような巨漢どもの間を縫って、時には押しのけて受付カウンターにたどり着くことなど、早々に諦めざるを得ない。

出鼻どころか、挫く鼻すらないというのに、この有様では先が思いやられる。

壁際には空きがあり、そこではなんとか息が出来そうだ。

彼はひとの流れ逆行するように、店内の通り側に設置された大窓の下を目指した。

 

 

受付カウンター及び案内が貼り出される掲示板の付近が混雑が酷い。

足の踏み場もない程に密集した人々が、我こそはと受付嬢に用紙を渡そうとしている。

カウンターを挟んで受付嬢は3名で対応しているが、慌ただしく用紙に書き込みをしたり、時に金切り声をあげては人々の興奮を抑えようとしていた。

 

(予想は出来たけれども、ここまで酷いとは……)

 

中には今すぐの受付を諦めた冒険者もおり、彼と同じように集会場の端でこの騒ぎを傍観していた。

混雑する受付を遠巻きに見ながら、彼は壁に寄りかかった。

通りに面した大窓のすぐ隣だ。

窓からは建物の合間からこれから目指すべき山脈が、大地に横たわる様を臨むことも出来る。

 

入り口の正面にある受付カウンターとは対角の位置に談話スペースがあり、丸机と数個の椅子が置かれている。

どれも木製で、丸机に至ってはガタがきているものもある。

肘をつこうものならガタガタと揺れてしまって落ち着きがない。

これら設置された椅子はすでにひとで埋まっており、あぶれたものたちが壁に寄りかかっては騒ぎが落ち着くのを待っている。

 

「おい」

 

聞き慣れてはいないがどこかで聞き覚えのある声が聞こえる。

ガヤガヤとざわついた店内でも妙に通る声だ。

透き通るようだともいうことはできるが、どちらかというと真っ直ぐ自身に向けられた声である。

 

「おいと言っている」

 

彼が寄りかかった壁に一番近い椅子からだ。

その人物は背もたれに肘をついてこちらを見上げてくる。

肩までかかる栗色の髪、肌は白く、切れ目で、鼻立ちは良い。 

若くは見えるが、年はわからない。

年はわからないが、妙に達観した雰囲気を醸し出している。

そう、入り口で高圧的な態度を示したあの女だ。

 

「浮かない顔だな。申し込みは済んだのか?」

「いえ、まだですが……」

 

じろりと彼を一瞥した後、息をひとつ吐いて彼女は言った。

 

「呆れた。貴様は何故ここにいる」

「えっ……」

「何度も言わん。貴様は何故ここにいる」

「何故って言われても……」

 

この女は突然何を言い出すのか。

初対面の人間に対して、脈略を無視した話を振ってくる。

 

「あの人波掻き分け、申込書を出す程度のことが何故出来んのだ」

「いや、それは……」

「回答になっていないな。結局貴様が何故ここにいるか、さっぱりわからん」

 

彼女は肩をすくめると、続けざまにこう聞いた。

 

「貴様も冒険者だろうに。誰かにやれと言われたのか? 誰かに言われたがためその剣を振るっているのか」

 

彼女は顎で彼の腰に提げられている剣を指す。

 

「いっ、いや……! それはちがう!」

 

思わず語尾を強める。

冒険者という職についたことも、誰かに強制されたわけではない。

それだけは確固たる自信があるため、彼は即答することが出来た。

もちろん、自分で選んだのだ。ただし、”そのときは”であるが。

 

「では、金か?」

 

端的に聞いてくる彼女の問いかけに、彼は回答することに戸惑った。

いかんせん、この”冒険者”という職は彼にとっては生活費の稼ぎどころであったのだ。

そうすると彼女の問いかけに彼は「そうだ」と答える他ないが、彼からしてみたら「金のためです」とも言い切れない気持ちもあった。

ただ「金のために」ということにちょっとした嫌悪感を覚えるのだ。

金のために毎日毎日、野に出ているわけではないし、金のために毎日毎日を浪費しているわけではなかった。

しかし、それを否定するそれ以上の回答はない。

 

「そうかも……しれない」

「……そうか」

 

彼のその回答を受けた彼女は、少しの間彼から目をそらした後、再び彼を見上げて言った。

 

「貴様はいやいやではないが、"仕方なく"剣を振っているのだな」

 

間違いではない。

彼女が言うことの全ては決して間違いではない。

ただ、自身であえて考えないようにしていたことをまるで見透かしたかのように言ってくることに、彼は少々腹が立った。

 

「……そう言う、あなたはどうなのです?」

「私は違う。この剣を振るうためにここにいる」

「では、なんのため剣を振るうというんですか? あなたも報奨金が目当てなのですか?」

「そんなものは結果に過ぎない。私がわざわざ戦う目的にはなりはしない」

「だったら……?」

「人様に言いふらすほどの理由ではないがな。ただ、揺るがぬ不変の中心に基いて戦っている。それが私が戦う理由に結びつく」

 

彼はその言葉の意味を、うまく取ることが出来なかった。

はぐらかされた気がしないでもないが、揺るがぬ不変の中心とはなんだろうか。

 

「わからんと言った顔だな。では、こうも問おう。貴様はどうありたい? この世界で、何を望む?」

 

これには黙る他無い。

彼はその問いに対する答えを持っていなかった。

答えとなり得る何かは心や頭の中にある。ただ、それを口から出すということが到底不可能だった。

 

「この世で最も強い魔法は、貴様の行動に宿る」

 

彼女はそう言い放つと立ち上がっては、彼を真っ直ぐ見た。

しっかりと対峙してみると、女性の中でも体格は良い方であろうが、それでもこの屈強な冒険者共のなかではあまりに小柄であった。

 

「さて、腐った貴様を叩き起こすのもおもしろそうだな」

 

彼の手に握られた申込書を奪い取ると、彼には目もくれずに受付カウンターへと向かった。

稲妻のようにことを進める女だ。

あいも変わらず正体不明であり、問答無用で、恐らく自分の話すら聞いていない。

彼は呆気にとられつつも、屈強な巨漢どもに紛れていくその背中を見る。

大男と言われるような輩の中に入ると、もはや子どもだ。

 

しかしその彼女だけ、この数分の会話の中でも他の冒険者と違う点が見えつつあった。

彼女は、名声や報奨金などというものよりも、ずっと先を見ているような気がしたのだ。

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

「方向を見定める力」

 

何か目標を持って物事をはじめる。

これ自体にはなんら新鮮味もない使い古されたことばです。

”目的意識”……実に厄介な言葉です。

持てば持ったでないがしろには出来ず、持たなければ何もなしえない。

そしていつしか目的と手段が入れ替わってしまう。

目的を持つこと自体が、苦痛に思えてしまうようなこともあります。

 

ただ、目的に伴った行動に勝るものはありません。

自分で書いておきながら、書いていてハッとした台詞ではあります。

自分の脳から生み出された言葉ではなく、ダンジョンの奥深くに隠された言葉であるかのようです。

 

「この世で最も強い魔法は、貴様の行動に宿る」

 

 

 ※前回のお話

 

【雑記】討伐隊と、主体性の奪還 (1) - なんかカラフルな生活
それでは、どこかの誰かさん。あなたに彩のあるカラフルな日々を ...

 

 

 

それでは、どこかの誰かさん。あなたに彩のあるカラフルな日々を。