【SHF】討伐隊と、主体性の奪還 (1)

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挑戦できるような気はしていた。

ただ、それが成功するかどうかはわからなかった。

自分を変えるチャンスだとは思う。

でもそのチャンスを活かせるとは思えない。

 

頭の中でこねくり回す。

選択肢とその選択の可能性への追求は、自身の頭では到底回答を導き出すことなど不可能な領域に達しているように思えた。

右手で握りしめた”紙片”に、手汗が染み込む。

思えばこの紙片一枚のために、ここまで思い悩んでいるというのに。

彼は整然の敷き詰められた石畳の上で、焼き付けるような日差しを浴びながら脳内を煮えたぎらせていた。

 

 

 

半日も経たずに隅々まで巡ることが出来るような小さな港と小さな村。

東西に街道が繋がり北には連峰を臨む。

南に位置する海から山々に吹き抜ける風を浴び、風車ががたりごとりと音を立てて回る。

 

彼は港と町の中心をつなぐ通りに面した一軒の店の入り口に立っていた。

町の集会場兼酒場であるその木造建築は、海風を浴び続けたせいかどことなく錆び付いている。

入り口に提げられた酒樽が描かれた看板は、風に揺れるたびに軋みをあげていた。

 

その集会場を彼は昔から知っていた。

なんせ彼はこの町で生まれ育ったのだから。

元は小さな酒場であったことも知っているし、冒険者の斡旋業を始めたのも、自らの成長と共に記憶している。

何度も、この集会場で依頼と言う名の小遣い稼ぎをしたことか。

 

(ああ、最初はキノコ採りだった)

 

それ以来、命の危険を冒したこともないし、報奨金と呼べるような額を受け取ったこともない。

すべてが平穏無事だったのだ、彼の人生というものは。

襲われれば逃げるし、剣を持てば手が震える。

 

彼は世に言う”冒険者”であった。

身なりも冒険者である。

腰には人の腕ほどある長剣を提げているし、身にまとうは皮で出来た軽装具だ。

 

彼ら冒険者に安住の地はないとされる。

彼らはまだ見ぬ世界の開拓をし、力があるものは困難に立ち向かう。

その行為に金が支払われ、その日の飯を食っている。

 

しかしこの職業、向いていないと彼は考えていた。

ただ続けざるを得なかった。

小さなこの町で定職に就くよりも、それでも稼ぎがいいからだ。

身体が持つ限り、依頼を受ければいい。

キノコ採りでも、荷捌きでもなんでもやればいい。

 

本当は別のことがやりたかった、そう吐くこともしばしばあった。

別のこととは言ってもそれが何であるかはわからない。

しかし毎日毎日、使いもしない剣を研いでは意味もなく腰から提げているのも焦燥感を通り越し、虚しい。

 

「貴様、邪魔だ。道を開けろ」

 

その声は、実に唐突であった。

辛うじて聞き取ることが出来たその声の主がわからなかった。

背後か。

振り返ると、彼の背後に黒光りした”カラクリのような何か”が立っていた。

 

(冒険者か?)

 

彼は人並みに長身ではある。

そのため声をかけたその人物が、若干見上げるような格好になっている。

その顔が、しかめっ面だ。

不満と鬱憤が下瞼の痙攣によく現れている。

 

しかし顔よりも、身に着けている防具に目がいく。

人であることを理解するのに少し時間を要するような、人形のカラクリのような重厚な装備だ。

殴りかかろうものなら自身の拳が粉砕してしまいそうな厚さを備える、黒光りした鎧を身にまとっているのだ。

 

「ああ、すみません」

「謝れとは言っていない。道を開けろと言っている」

 

追い打ちをかけるようにそう言い放つと、道を譲るより前に強引に彼を押しのけながら店内へと入っていった。

まじまじと顔を見る間もなかったが、女性であるということはわかった。鎧の肩に乗る髪が栗色であったことも記憶したが、顔立ちまでは記憶できない。

なにせ、態度があまりに高圧的過ぎた。

 

(この日差しの中で汗ひとつかかずによくいられるものだ)

 

彼はそう吐き捨て、盛大な金属音をたてて店内に消える”カラクリのような何か”の背中に一瞥をくれた。

その背中が店内の人ごみに紛れた時、鐘が鳴った。

 

「くそっ……」

 

苦々しく吐き捨てる彼の手にはまだ紙片が握り締められている。

受付開始を知らせる鐘だ。

 

いの一番にこの紙片、”討伐隊参加希望票”を受け取りに来た。

しかしその時は参加票だけ受け取って帰った。

名前も書いてある。職歴も書いてある。

ただし、自身が何を得意にしているか書いていなかった。

剣術とでも書くか? いや、剣をぶら提げているだけを得意とは言わない。

 

考えれば考えるほど、何も書けずに今日を迎えた。

右手に握りしめた紙片を広げ、そこに踊る文字を眺める。

 

"討伐隊結成"

 

手汗で文字が滲んでしまっている。

末尾にはこうも書かれている。

 

"勇気ある者の参加を求む"

 

少なからず今の彼には勇気もなければ、自ずから何かをしようということも出来なかった。

  

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

「主体性を発揮する」

 

そう考えるとなかなか難しい話かもしれません。

主体性を発揮するとは具体的にはどういうことなんでしょうか。

 

「率先してリーダーとなり、皆を引っ張っていく」

「周囲から尊敬の眼差しを送られるようなスーパーなひとになる」

 

恐らく、これらは正解でもあって正解ではありません。

というのもここで語られる主体性というものは、我々が考えるようなリーダーシップとは必ずしも一致しないのです。

 

常日頃、自身に起こる事柄に対してどういう反応をしているか。

身に起こった何かに対して、「私は悪くない」「あいつのせいで」「私こそ被害者だ」と脊髄反射をしてはいないでしょうか。

 

主体性を発揮するとは、こうした自分に起こる様々な事象に対して反応を選択するということです。

 

上記の場合、どのような反応を選択することができるでしょうか。

選択肢は、「あいつが悪い」のみなのでしょうか。

良くも悪くもそれを選択したということは、それ以外を選択しなかったということの裏返しでもあります。

 

よくよく考えると、話自体は難しくはありません。

 

自身が冒険者となったことも、自身で選択したことですし。

より危険な討伐隊に参加することも、自身で選択したことです。

 

自分の反応を自らで選択する。

自分の反応に主体性を取り戻す。

 

受け身になったその姿勢、そこから選択された反応というものというのは、

あなたの言い訳の正当性に関わらず、あなたが選択したことになっているのです。

 

 

 

それでは、どこかの誰かさん。あなたに彩のあるカラフルな日々を。

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