あいつが緊急で重要だと言ったから、あいつが、あいつが

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photo credit: code poet via photo pin cc

 

(さて、どうしたものか。)

 

 彼は煌々と輝くランプの灯りの下で、積もりに積もった書類に囲まれて頭を抱えた。

 古ぼけた集会場の建物は、降り続く大雨と叩きつけるような風のせいで、波に揺られる船のように軋んでいる。

ひとたび強い風が吹けば支配人室のランプを吊るしている柱が揺れ、仕事机に積み重なる書類の山の影が揺れるのである。

 

(ああ、今日も眠れそうにない。)

 

 彼の仕事机には、日々多くの”処理なければならないこと”が積もっていった。

昨日は20件新規の依頼が舞い込んできた。

これは早いうちに集会場の掲示板に貼りだして募らなければならない。

さらに、38件の依頼完了報告を処理して、報酬金を適切に支払わなければならない。

成果報酬といった形で依頼されているものもあるので、それは結果を見極めなければならない。

依頼の失敗も6件、うち2件は引き受けた冒険者のパーティーが全滅した可能性もある。

厄介な話だ。

全滅した可能性があるなら、契約期限までのんびり待っていればいいという話でもない。

 

 そして極めつけは、今朝王国から届いた通達である。

鉱山開発の本格化に伴い、大規模な討伐隊が結成されるというのだ。

洞窟から湧いて出てくる魔物たちに痺れを切らした王国側が、大盤振る舞いで一斉告知である。

しかも国王の勅命ときた。

この報は黙っていても諸国に駆け巡り、我こそはという命知らずな輩がなお一層ここを訪れることだろう。

国王の名の下に”勇気ある者の参加を求む”とまで付け加えられている。

 

 血の気が引いた。正直なところ、これを捌けるとは思えなかった。

ただでさえ、日々の依頼授受に泡を食うというのに。

この集会場で出した依頼のなかには、すでに行方不明者が出ている。

契約反故なのか、本当に死亡したのか。

それぞれの状況と情報を掴もうにも人手が足りないし、時間も足りない。

 

 酒場としての営業は問題無いだろう。場を仕切る長がしっかりしている。

ただ、依頼の授受を行う集会場としての業務は問題がある。

いかんせん、斡旋業を始めて3年と経っていない。

始めたころはぽつりぽつりと依頼が入ってくるぐらいで、それこそ「ぶどうの収穫の人出が足りない」だとか「商団の警護」だとか、片手間で処理できるようなものであった。

 しかし、昨年この村の近くに鉱脈が発見された。

そのときは「賑わうだろうな」程度の考えで、この集会場の人員を増加したり、家屋そのものを拡張したりするといったことを考えてはいなかった。

 それが甘かった。王国が国を挙げての採掘事業に乗り出したのだ。

その対応速度は彼が考えていたよりも遥かに早く。気がつけば、この村は王国から派遣された使者と噂を聞きつけた冒険者たちでごった返していたのだ。

 そもそもこの村の周辺は開拓が進んでいなかっただけに、何がいるかわかったもんではないし、そんな中で一般の鉱夫が山に出かけて働けるわけもない。とすると、屈強な冒険者たちに魔物どもの一掃が命じられる。

 そして、奇しくもこの小さな小さな”初めて間もない”集会場がその拠点に抜擢されたのだ。

 今朝届いた通達には、そのようなことが書かれていた。

正直なところ、こんなことになるのがわかっていたら、これまで通り村の酒場を続けていた。

 

「どうしたものか……」

 

 翌朝、鐘がなるとともに冒険者たちが押し寄せ、今か今かとこの告知が掲示板に貼り出されるの待ちかねるのだろう。

筆は進まず、酒だけが進んでいく。

  

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

働いていると否が応にも”緊急で重要なこと”が押し寄せてくるというものです。

それは「ああ、忙しくなったなあ」という感覚で片付けることが出来るものから、それこそ生命の危機まで感じてしまうような理不尽なタスクというものもあることでしょう。

 

私が特に最近感じているのは、「誰にとっての緊急で重要なことなのか」ということ。

自分にとって”緊急で重要なこと”が、もしかしたら、他の人から見れば”緊急で重要じゃないこと”と思われているかもしれないし、”緊急でも重要でもないこと”に思われているかもしれません。

自分にとって”緊急で重要なこと”をこなそうと思ったら「なんでそんなことやってんだよ!後にしろよ!」なんて言われてしまうことも。

 

『7つの習慣』で提唱されている”重要なことと緊急なことのマトリックス”ではありますが、これはさらに、誰にとってという要素を加えることが必要になってくるのかもしれません。

このタスクは私にとってなのか、チームにとってなのか、チームの誰かにとってなのか、ここにいない誰かにとってなのか……。

 

ただ、誰かにとって”緊急で重要なこと”に振り回されては元も子もありません。

それが「誰にとって」「緊急で」「重要なのか」を把握した上で、ふるいにかけていきましょう。

 

 

 

それでは、どこかの誰かさん。あなたに彩のあるカラフルな日々を。