防具も大事だと村人Aが言っていただろうに

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photo credit: Ran Yaniv Hartstein via photo pin cc

 

 正直なところ、この選択は考えものであった。

しかし、華々しく初陣を飾りたいという思いもある。

 彼はそれを手にするには少々自身の身の丈に合わないと感じていたが、”例のブツ”を手にしたあとのことを考えるとやはり、足を止めるわけにはいかなかった。

財布の紐はすでに緩めてある。

 

 先日、王国より討伐隊が結成の命が下った。

その命を受けた各地の斡旋所は、彼のような冒険者達に一斉に告知をしたのだ。

そこには”勇気ある者の参加を求む”という一言を付け加えられていた。

 近年で稀に見る大規模な討伐隊結成の命に、一念発起というものだろう。

その告知文に闘志を燃やす者は数知れず、彼もその中の一人であった。

 

 この討伐隊に参加するにあたりまずするべきことと言えば、武器の新調である。

”例のブツ”とはつまり、彼がそれまで指を加えて眺めるしかなかった剣である。

さらにはそれを購入しては意気揚々と討伐隊の出陣式に臨むことがまずもっての目標なのだ。

彼の心はすでに購入を決しており、武器屋の扉を押し開けていた。

 

 窮屈な店内に所狭しと並べられた商品。見慣れた景色だ。

町の外に出るようになってから、幾度と無く訪れた場所だ。

小さな天窓から麗らかな午後の日差しが差し込み、宙を舞う埃がきらめいていた。

 店主はカウンターの奥で安楽椅子に腰掛け、こくりこくりと船を漕いでいる。

カウンターに置かれた呼び鈴を鳴らすと、店主はビクリと身体を震わせ、こちらを焦点の定まらない目で見る。

 

「ああ! すみませんね」

 

 バツが悪そうな店主椅子から立ち上がると、頭を掻きながら彼の前へと歩み寄る。

彼は高鳴る鼓動を抑えつつ、店主に要望を伝えた。

 

「おお! ついに買う決心がついたのかい?」

 

 そうなのだ。店主にしてみれば、彼がこの剣に関心の全てを置いていたことなどわかりきったことなのだ。

彼が足しげくこの店に通っては、自身の財布の紐を緩めることなく立ち去っていくことなど”見飽きた風景”なのである。

 

「そうだ。すぐに使いたいだろ? ここで装備していくかい?」

 

 店主の問いかけに彼はコクリと頷いて、腰から下げていた”お古”の剣をカウンターの上に置いた。

これはもう用なしであるのだから、売却しても良かろう。

 意を汲んだ店主が彼が置いた剣を身を乗り出して掴み上げ、続けて査定でもしてやろうかと考えた矢先のこと。

店主の目に、”妙なもの”が写り込んだ。

 

「おいおい、それで大丈夫なのかい?」

 

 彼は店主にそう言われて初めて気がついた。

革の鎧の留め具が、壊れて外れていたのだ。

 

 

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 常日頃から何かに備えることは、やっておいて損ではありません。

しかし備えるということは目に見えて何かが変わるわけではないので、蔑ろにしてしまいがちです。

 とあるゲームをしていて主人公の強さを示す数値を一つだけ5アップさせるとしたら何を上げますか。

 

敵をやっつける力 ”攻撃力”

敵から身を守る力 ”防御力”

 

 多くの人が攻撃力を上げるかと思います。

だってそうした方が敵に大きなダメージを与えられるから。

とっとと敵をやっつけることが出来るから。

そうこうしていくうちに、攻撃力だけ高いキャラクターが出来上がり、敵の攻撃が当たったら終わりのやるかやられるかの勝負になっていってしまうのです。

 

 剣を買おうとした彼のように、剣(=攻撃力)のことで頭がいっぱいで、そもそも防具(=防御力)のことまで頭が回っていなかった。

そのためいざ剣を振るってみても、ガラ空きの胴体に手痛い一撃をくらってしまう。

 

 ここでふと、自身の仕事を振り返ってみるのです。

あまりに自分の身を守る、防御力を上げることに意識がいっていないのではないかと。

 

例えば、緊急時の対応。

起こってしまったらそのときどうするか、どうやっつけるかという”攻撃力”の高さがモノを言う話であります。

対応が終わった時、がむしゃらに剣を振るった時、自分がボロボロになっていることに気が付きます。

簡単には癒えない傷を負ってしまうことも。

 

では、そもそもそれ自体が起こらないようにするということはどうでしょうか。

未然に防ぐためには、事前に起こるちょっとした攻撃を跳ね返すためにはどうしたらいいのか。

身を守る方法、身を守る力。

それ自体はトラブルなどを華麗にやっつけることではなく、むしろ味気ない華のない防御力の高低に因るものであります。

 

起こってしまった時にどうするか、これは”経験”(”なんでも経験してみろ”とか”失敗も経験の内”とか言われる時の経験)が大きく影響します。

しかし、起こらないようにするにはどうするか、これは日頃の習慣やちょっとした工夫で対応していくことが出来ます。

 

身を守ること。

蔑ろにしてしまいがちだけど、ちょっと考えてみると、大事なことだったりします。

 

 

 

それでは、どこかの誰かさん。あなたに彩のあるカラフルな日々を。

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